GDPR と AI による会議要約:どのエンドポイントを選ぶべきか
Autorec が送るのは、あなたが選んだ AI プロバイダーへの文字起こしだけです。それが GDPR のもとで何を意味するのか、Mistral、Scaleway、IONOS、OpenAI、Anthropic の比較、そしてローカルモデルのほうが適している場面を解説します。

Autorec の文字起こしは、あなたのマシン上で動きます。外に出る可能性があるのは AI 要約の工程だけです。これをオンにすると、文字起こしはあなたが選んだ LLM プロバイダーに送られ、その瞬間から、そのプロバイダーは会議に含まれていた個人データの処理者(processor)になります。
この記事は、そのプロバイダーの選び方についてです。法的助言ではありません。法的根拠やどこまでのリスクを許容できるかを判断するのは、データ保護責任者(DPO)や法務担当です。以下のプロバイダーに関する情報は、2026 年 10 月時点で各社のドキュメントを確認したものです。ポリシーは変わるので、表の内容を判断材料にする前に、リンク先のページを確認してください。
Autorec が実際に送るもの
Autorec の AI 要約は、設定 → AI要約 でプロバイダーを追加するまでオフのままです。実行されると、あなたのコンピューターから、設定した APIベースURL へ HTTPS リクエストが 1 本、直接送られます。間に Autorec のサーバーは挟まりません。
リクエスト本文に含まれるのは次のものです。
- システムメッセージとしての要約プロンプト
- ユーザーメッセージとしての文字起こしテキスト
- モデル名と要約の最大長
これに加えて、Extra request fields (JSON) に自分で追加したフィールド(プロバイダーのルーティング設定など)が含まれます。これらは設定値であって、会議に関するデータではありません。それ以外は何も送られません。つまり、音声、映像、スクリーンショット、ファイル名、参加者リストは送られません。ただし文字起こしは全文が送られるので、長い会議ならそれだけ大量のテキストになります。
返ってきたタイトルと要約は、ディスク上の録画の隣に保存されます。API キーは Autorec のローカル設定に保存され、ローカルサーバーの場合は不要です。
声や顔を含む音声と映像は、マシンから一切出ません。出ていくのはテキストですが、会議中に名前や健康状態、給与の話が出れば、テキストも立派な個人データです。テキストだけだからといって、文字起こしが匿名になるわけではありません。
録画側の話、つまり法的根拠、同意、保存期間については、GDPR と HIPAA の記事で扱っています。そこに書いたことはすべて引き続き当てはまります。この記事は、そこにベンダー選びのステップを加えるものです。

プロバイダーを選ぶ前に確認すること
ほとんどは次の 4 つの問いで決まります。日本の個人情報保護法(APPI)を意識している方にとっても、ベンダーを比べる出発点として使える問いですが、APPI 上の評価はこの記事では扱いません。
データはどこで処理されるか? 「EU」は魔法の言葉ではありませんが、域外移転の問題の大半はそれで片づきます。米国で処理する場合は、移転の仕組みと移転影響評価が必要です。
データ処理契約(DPA)はあるか? プロバイダーがあなたに代わって個人データを扱うなら、GDPR 第 28 条により契約が必要です。営業担当との打ち合わせなしで締結できるかを確認しましょう。
内容はどのくらいの期間保存されるか? 多くの API プロバイダーは、学習には使わなくても、不正利用の監視のためにプロンプトを短期間保存しています。「ゼロデータ保持」は通常、デフォルトではなく、申請して結ぶ取り決めです。
内容は学習に使われるか? API 経由の通信については、大手ではデフォルトで学習に使うケースはもう少なくなっています。ただし一律ではなく、無料枠と有料枠で扱いが違うこともあります。
EU でホストされているプロバイダー
Mistral
Mistral は、Autorec のプロバイダー一覧で最初に出てくる EU の選択肢です(プロバイダー → Mistral、ベース URL は https://api.mistral.ai/v1、デフォルトのモデルは mistral-small-latest)。
- リージョン: Mistral のヘルプセンターによると、データはデフォルトで EU 内にホストされ、米国でホストされるのは US 向け API エンドポイントを明示的に使った場合だけです。また Mistral は、一部 EU 域外を含むサブプロセッサーを Trust Center に掲載しています。
- DPA: Mistral は商用規約のもとで Data Processing Addendum を公開しています。
- 学習: ここは注意して読むべき行です。Mistral のヘルプセンターによれば、従量課金プランではいつでも学習へのデータ利用をオプトアウトする権利があり、その切り替え場所は Mistral Studio の Privacy → Anonymous improvement data だと説明されています。無料の Studio モードについては、Mistral がデータをモデルの学習に使う場合があると明記されています。消費者向けのチャット製品と API では、トグルが別々です。思い込みは禁物です。Autorec に入れるキーを発行したアカウントで Privacy ページを開き、確認してください。
- 保存期間: Mistral は有料プランで、チャット補完を含む対応 API 呼び出しに Zero Data Retention を提供しています。サポート経由で申請し、Mistral が承認するかどうかを判断します。私が確認できた Mistral のヘルプページには API の内容のデフォルト保存期間が書かれていなかったので、ここでは数字を載せません。問い合わせるか、DPA を読んでください。
Scaleway
Scaleway の Generative APIs はパリでホストされており、チャット補完エンドポイントを含む OpenAI 互換をうたっています。Autorec にプリセットはないので、Custom… を選び、Scaleway のコンソールに表示されるベース URL を入力します。
Scaleway のデータプライバシーのページによれば、同社はプロンプトや出力を収集、閲覧、再利用、分析せず、モデルの学習にも使いません。例外は不正利用や障害の調査で、その場合は最大 2 週間データが保存されることがあります。このページは Scaleway を処理者として位置づけ、契約面についてはプライバシーポリシーと AI サービスの利用条件を参照するよう案内しています。
IONOS
IONOS AI Model Hub は OpenAI 互換のエンドポイントを提供しており、すべての処理はドイツ(ベルリン)のデータセンターで行われ、顧客データがモデルの学習に使われることはないとしています。保存期間の記載は見つからなかったので、会議の内容を流す前に問い合わせてください。こちらも Custom… を使います。
その他
OVHcloud AI Endpoints と Aleph Alpha もヨーロッパの事業者です。執筆時点では、現行の規約と API 互換性を一次情報で確認できなかったため、表には入れていません。
米国のプロバイダー
OpenAI と Anthropic は、どちらも Autorec にプリセットがあります。API のデフォルト設定は、一般に思われているより良好です。課題は学習ではなく、米国への移転です。
- OpenAI: ドキュメントによると、オプトインしない限り API のデータはモデルの学習に使われず、不正利用監視のログはデフォルトで最大 30 日間保存されます。Zero Data Retention には事前の承認が必要です。EU のデータレジデンシー(
eu.api.openai.comのプレフィックス)はプロジェクト単位の設定で、Zero Data Retention や不正利用監視の変更といった条件が付き、すべてのモデルが対応しているわけではありません。 - Anthropic: プライバシーセンターによると、API ユーザーの入力と出力は 30 日以内にバックエンドから削除され、商用製品の入力と出力はデフォルトで学習に使われません。標準契約条項(SCC)を含む DPA は、商用規約に自動的に組み込まれています。EU 内だけで処理するオプションは確認できなかったので、あるとは書きません。
一覧で比較
| プロバイダー | 処理リージョン | 保存期間 | 学習への利用 | DPA |
|---|---|---|---|---|
| Mistral | デフォルトで EU、US エンドポイントは任意 | 有料プランは申請により ZDR。確認したページにデフォルト期間の記載なし | Studio のトグルでオプトアウト。無料枠は利用される場合あり | Addendum を公開 |
| Scaleway | フランス・パリ | プロンプトは保存しない。障害調査時は最大 2 週間 | 利用しない | プライバシーポリシーと AI 利用条件に処理者としての条項 |
| IONOS | ドイツ(ベルリン) | 記載なし | 利用しない(IONOS による) | 未確認 |
| OpenAI | 米国。条件付きで EU レジデンシーも可 | 最大 30 日(不正利用ログ)。ZDR は承認制 | オプトインしない限り利用しない | 未確認 |
| Anthropic | EU 限定の記載なし | 30 日以内に削除 | デフォルトでは利用しない | 商用規約に組み込み |
「未確認」は、私が読んでいないという意味で、存在しないという意味ではありません。
ゲートウェイを挟むと関係者が増える
モデルの前に OpenRouter のようなアグリゲーターを置くと、そのアグリゲーターも処理者になり、さらにモデルを動かしている会社も加わります。これは制限できます。たとえば OpenRouter のゼロデータ保持フラグのようなリクエスト単位のオプションを、Extra request fields (JSON) で指定できます。設定の詳細は OpenRouter のプライバシー記事で説明しています。記録をすっきりさせたいなら、ルーティング層を挟むより、EU のプロバイダー 1 社と直接契約するほうが文書化は簡単です。
ローカルのほうが適している場合
EU のエンドポイントはリスクを減らします。自分のマシンで動くモデルなら、処理者そのものがいなくなります。ベンダーも、DPA も、域外移転も、保存期間の問題もありません。健康データ、弁護士・依頼者間の秘匿特権、人事案件、厳しい秘密保持契約のあるクライアントとの会議なら、そのほうが説明しやすい判断であることが多いでしょう。
代わりにかかるのはハードウェアと品質のコストです。ノートパソコンで動く小さなモデルは、クラウドの大きなモデルより粗い要約を書き、長い文字起こしの処理には時間がかかります。Autorec を Ollama や LM Studio につなぐ方法は、ローカル LLM のガイドで紹介しています。
現実的な使い分けの例です。
- 日常の社内会議:学習をオフにし、DPA を締結した EU ホストのエンドポイント
- 機密性の高い会議:ローカルモデル、または要約はせず文字起こしだけ
プロバイダーは設定からいつでも切り替えられ、要約は録画ごとに生成されるので、どちらか一方に決めてしまう必要はありません。
簡単なチェックリスト
- プロバイダーを選び、使うキーを発行したアカウントで DPA に同意する。
- 一般論ではなく、そのアカウントでの学習設定を確認する。
- プロバイダーが Zero Data Retention を提供していて、リスクの程度から必要なら申請する。
- AI プロバイダーが文字起こしを処理することを参加者に伝える。録音の告知には、処理者の種類を明記する。
- プロバイダーを処理活動の記録に追加する。
- 先に内容を確認したい会議では、文字起こし後に自動要約 をオフのままにする。
Autorec は音声をあなたのマシンに残し、どのテキストが外に出るかを正確に示します。契約とポリシーの整備は、あなたの側の仕事です。録画側については GDPR と HIPAA のガイドを、会議ボットを使わない理由についてはボットなしレコーダーの記事をご覧ください。
出典
2026 年 10 月に確認:
- Mistral:データの保存場所、学習のオプトアウト、Zero Data Retention、リーガルセンター
- Scaleway:Generative APIs のデータプライバシー
- IONOS:AI Model Hub の概要
- OpenAI:データの管理
- Anthropic:データの保存期間、学習への利用、DPA
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